今年の冬の長期予報が発表された。
今年も 暖冬小雪 に成るそうだ。
当たって欲しくは無いが、ここ何年かの傾向と、地球温暖化を合わせて考えれば、やはりそうなる確率は高い。
この傾向が続けば、かつて豪雪地帯と呼ばれたオイラの住む地域も、雪不足に悩む様に成るのではないか。
オイラの様に雪を待ち望む者にとって、雪が降らないと言う事は、悲劇としか言いようが無い。
毎年、雪は、多くの物語をオイラに与えてくれる。
楽しい事も有れば、ヤバイ事も有る。
それは、その時に、その場所にいなければ体験できない事。
ある、初春の日、オイラは、いつもの裏山に滑りに行った。
裏山と言っても、シール登高で3~4時間掛けて登る山だ。
この山は、百名山の一つで、春は山スキーで賑わう比較的有名な山だ。
だいたい、この周辺の山でオイラは遊んでる。
その日も、いつものとおり、シールを張り付け雪原を歩き、いつものコースを辿っていた。
天気は高曇りで、稜線には雪煙が舞っている。上は風が強そうだった。
歩きながら考える、「たまには、違う所を滑ってみたいな~」。
地図を眺める。読む。
辺りの山を見回す。
滑れそうな斜面は、そこらじゅうに有る。
視点を変える。
「こっちの沢を詰めると、あの斜面に出られるよな~」
思い立ったら即行動に出るオイラの悪い癖が出て、スキーを未知の斜面に向ける。
地図で目星を付けた沢に向かう。
ここしばらく降雪も無く、雪は安定していて雪崩の心配は無い。
沢の中は、風も当たらずに静かだ。
ダラダラと高度を稼ぐが、見通しの利かない沢の中に、うんざりし始めた頃、左手に、稜線に向かい真っ直ぐに伸びるシュートを発見した。
地図を睨む。
「ここを直登した方が早く稜線に出れそう」と、また思い立ったら即行動。
さすがにシールじゃ無理な斜度なので、ザックにスキーを括りつけて、キックステップで登る。
上の状態は解らないが、最悪ここを滑っても楽しそう、など呑気な事を考えながら汗をかきかき高度を稼ぐ。
稜線に近づき、斜度が緩んだころ合いを見計らってスキーを履く。
今まで見た事の無い視点から見る、見慣れた山々は新鮮だ。
次第に風をもろに受ける様に成る。
風に叩かれた雪は、堅く成りシールだとかなりやばい状態に成って来た。
まだ大丈夫と慎重に登るが、その時はもう遅かった。
打ち付ける風と、堅く急な雪面に身動きが取れなくなってしまった。
もっと早くに、引き返すか、アイゼンに履き替えるべきだったのに、完全にタイミングを読み間違えた。
堅い斜面に突き刺したストックにスキーを引っかけて耐える状態がしばし続く。
風に煽られて、バランスを崩せば滑落する。
滑り落ちたら止められる自信は無い。
少し死を覚悟する。
身を屈め、バランスを取りながら風の弱まるのを待つ。
やがて、奇跡的に弱まった時を見計らい、何とかスキーを外す。
ブーツを蹴り込んで、安定した足場を造り一息付く。
もうそこからは、高度を上げるのを諦めて、ツボ足でトラバースして目的の斜面に向かう。
たどり着いたその場所は、予想どうりの良いスロープ。
風を避ける様に、スコップで半雪洞を掘って、バーナーでお湯を沸かしてコーヒーを飲みながら考える。
かなりやばい事をしたなと、まじまじと思う。
そこでオイラは考えた、「でも、この状態って、山では日常なんだよな。
たまたまオイラが、その時にその場所に居たから体験できた事なんだ。
良いも、悪いも、その時に、その場所に居るからこそ感じ取れる事なんだ。
ぼんやりとテレビの前に居たって、体験出来ない事なんだ。」
世の中は、いろんな可能性に満ちている。
行動しないと感じ取れない事、体験出来ない事。
そんな事が一杯有る。
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